Background

プロジェクトの背景

人文学・社会科学を軸とする
学術知共創プロジェクトについて

 今日の世界は、AIや生命科学など科学技術の著しい進展が見られる一方で、差別や貧困、あるいは分断と対立の激化など、解決が求められている多くの社会的課題が存在しています。そのうえ、パンデミックや自然災害および地球温暖化のような、人間社会と自然との共生のありかたを問う深刻な問題も発生しています。また、Society 5.0やSDGsなど持続可能で人間中心の社会構想が謳われるなかで、長寿社会化や人口動態の変化といった、30年~50年先の将来を見据えて取り組まなければならない課題群も山積しています。

 こうした課題に直面している現代社会において、人文学と社会科学がはたす役割に対する期待が高まっています。それは決して狭い意味で「役に立つ」ことではなく、意味や価値を探究し、多元的で代替的な見方を提供しうる性能(reflective capacity)を有しているという人文学・社会科学の本来的な特質に根ざした、学術的な貢献への期待です。しかしその一方で、今日の人文学・社会科学がそうした社会的課題に対して十分な応答ができているだろうかという疑問も少なくありません。とくに、現代の社会的課題への取り組みにおいて、明らかに人文学・社会科学において蓄積されてきた知を総動員するような総合的なパースペクティブが重要であると考えられるのに対して、今日では学問の専門分化によって、個々の研究をマクロな知の体系と関連づけて展開することが難しくなってきているという状況があります。

 以上のような背景のもと、「人文学・社会科学に固有の本質的・根源的な問いに基づく大きなテーマを設定し、その中に自然科学も含む分野を超えた研究者が参加し、問いに対する探究を深めていく共創型のプロジェクトを行うことが有効である」とする観点から、文部科学省の委託事業として、2020年9月から大阪大学において「人文学・社会科学を軸とする学術知共創プロジェクト」が実施されることとなりました。
本事業の目的は、「未来社会を見据えて、そこで求められる新しい考え方や技術、社会的課題を提示するとともに、人文学・社会科学を軸とした学術知を共創する」ことにあります。より特定的には、次の4点の実施をめざしています。

  • 人文学・社会科学の研究者が未来社会の構想に能動的に参画するためのプラットフォームとしての共創の場を提供する。
  • 人文学・社会科学固有の本質的・根源的な問いから生じる大きなテーマの下で、自然科学も含む多様な人材や研究者、そしてさまざまなステークホルダーが関与する形で、未来の社会課題に向き合うための考察のプロセスを体系化する。
  • 研究者間のネットワークや国際ネットワークなど新たな知識基盤の構築、および人文学・社会科学と自然科学の双方を俯瞰できる人材の育成と世代間の協働に取り組む。
  • 具体的な研究実践に向けた研究課題・研究チームの構築を支援する。

このような目的のため、本事業は具体的には下図にあるようなしくみで、3つの大きなテーマのもとに共創の場を整備します。3つの大きなテーマとは、「将来の人口動態を見据えた社会・人間の在り方」「分断社会の超克」「新たな人類社会を形成する価値の創造」です。いずれもこれからの人間社会にとっての重要な課題であり、かつ人文学・社会科学からの学術的貢献への期待が高いものといえます。

 各テーマにおいては、テーマ代表者のもとに多様な研究者やステークホルダーが参集し、ワークショップその他を通じて研究課題の検討を深め、さらに研究チームを構成して研究実践に向けた探究の深化をめざすことになります。

 本事業は、あらかじめ「大きなテーマ」を提示しています。それは研究者の内発的な主体性と対立するものとしてではなく、むしろ、重要ではあるけれども容易には成果を達成することが難しいために躊躇してしまうような研究課題に対して、積極的に挑戦していただくことを励ますための枠組みとして設定されたものです。それはまた、現代の社会的課題に取り組むことを通じて、人文学・社会科学の根源的な問いを見直し、これまでの蓄積を踏まえながら、さらに新たな知の革新をめざした研究へと誘うことをねらいとしています。
この共創の場において、多様な分野の専門性や背景をもった人びとや研究者が集い、知的な議論を交わしあって、人文学・社会科学を軸とする学術の発展につながるような活動が展開されることを期待しています。