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論点抽出記事(詳細版):WS07〜政策と専門知―市民・現場・対応〜

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「人文学・社会科学を軸とした学術知共創プロジェクト」では、2022年3月7日、第7回ワークショップ「将来の人口動態を見据えた社会・人間の在り方~政策と専門知―市民・現場・対応―」を開催しました。
冒頭、テーマ代表者の大阪大学感染症総合教育研究拠点 大竹文雄特任教授が、人文社会科学の専門知を政策立案に活かしていくことが求められている中で、「今」「おおよその方向性」を求める政策担当者と「精緻で正確な見解」を探究している研究者との間に存在する認識の乖離が深刻な課題であることを指摘しました。それらの課題に向き合うために、研究者と政策担当者との密な連携、市民が情報を正確に受け取ることができるような発信の仕方について考えるという、本ワークショップの主題を提起しました。
続いて、2人のパネリストが話題提供を行いました。最初に、東京大学大学院経済学研究科 仲田泰祐准教授が「政策決定に活かされる『知』とは?」と題して、アメリカ中央銀行で政策分析・研究を行ってきた経験を踏まえ、アメリカの金融政策と日本のコロナ政策を比較しながら政策を支える専門知の在り方について問題を提起しました。もう一人のパネリストである文化人類学・医療人類学の研究者 磯野真穂氏は「リスクとその醸造のプロセス―医療人類学の視点から」と題して、カナダの原住民や医療機関における医師-患者間のコミュニケーションを例として、キーワードによるリスクの醸造について分析した結果を示しながら、専門家によるリスク提示の問題点を指摘しました。
一つの話題提供が終わるごとに、大竹特任教授とパネリスト2人に6人の研究者・実務者が加わり、多角的な視点から活発な議論が行われました。その議論内容について、以下の4つの論点に整理しました。

論点による整理

【論点1】善き政策(行動)のために真の探究活動(専門知)がどのようにかかわることができるか

「専門知の不確実性を強調することが重要である」(経済学)
「いくつかの選択肢を、そのメリットとデメリットとともに示す必要がある」(経済学)
「わかっていること、わかっていないことの両面をケアした発信が必要」(その他)
「誰もが共通の価値判断をしているはずだという政策側の誤った認識を正していくことが必要」(経済学)
「情報伝達の分野では、サイエンスコミュニケーションの専門家の知見を生かせないか」
「サイエンスコミュニケーションの役割を担う人の存在も重要だが、アカデミアがそのスキルを身につけることも必要ではないか」(経済学)
「リスクを伝える場合に、最悪の事例を出すのは、リスクを伝えることになるのか。専門家が使うレトリックには、所属するコミュニティの価値観が入りこんでいる」(文化人類学)
「知識を多く持っている方が言うことをきかせる、というスタンスになりがちである」(教育学)
「最悪の事例を最初に出して参照点とし、それより少しでもいいことを利得と感じさせるとか、損失を強調して損失回避を誘導する方法もある」(経済学)
「リスクコミュニケーションとは、実体のないものである医療者は、自分が考えるリスクを患者も理解・納得した上で行動変容をもたらしたいと考思うために、表現に加飾を加えて誘導してしまうことがある。こうした加飾をどう捉えるかは興味深いテーマである。」(哲学)
「マクロ経済の政策に関するリスクコミュニケーションは、市場との対話、リスクの数値化、記述が意味するものについての合意形成などが前提になる。時間の有無、対象者との信頼関係などの点で、医療の現場でのリスクコミュニケーションは全く違うものではないかあるべき」(経済学)
「日本では、最悪の事例を使ったリスクコミュニケーションのせいで、HIV、BSE、HPVワクチンなど、社会が混乱に陥ることが繰り返し起こっている」(文化人類学)
「リスクコミュニケーションには、客観的事実だけでなく、社会にこう動いてほしいという願いを伝えるパターンもある。社会を動かしたいという意識が強い場合は、その自覚が必要ではないか」(文化人類学)
「リスクコミュニケーションとプロモーションの違いはある。専門家はそれらを分けて議論し、背後にある価値判断を明確にしておかないと不信感につながる」(経済学)

【論点2】時間的制限がある中で、異なる専門知間の見解をつなげて、ひとつまたは複数の提案にする方法をどう確立していくか

「複合的な要素、分野を超えた専門家同士の話し合いが重要。その際には、リアルタイムに幅広い情報が集約され、見える化されるシステムが必要だろう」(その他)
「専門家が話し合っても、一つの意見には集約できない。とくに社会に与える影響が大きいほどそうなる。『結論は出ない』という共通認識が必要だ」(経済学)
「専門分野によっては、唯一解を求めがちになることを意識しておくべき」(教育学)
「専門分野が違うと、リスクへの理解や感度が全く異なる。伝え方も重要になる」(経済学)
「リスクコミュニケーションは、コミュニティ内で共有されている暗黙の了解を疑う契機になる」(その他)

【論点3】政策担当者が学術に求める「期待」に向き合うための専門家の基本的姿勢をどう考えていくか

「政策担当者に、できるだけシンプルに伝えることは一つのポイントである」(理工系)
「リスク評価においては、前提条件やデータが出てきたプロセスなども含めて伝え、公平な判断につなげることが重要」(その他)
「政策担当者に伝えるには経験が重要であり、どう経験値を高めるか、専門知をどう政策に生かせるかという問題意識につながる」(哲学)
「専門分野が社会と関わるような事象での経験や関心が不足している」(経済学)
「アカデミズムがいきなり政策現場に出ていっても、専門知が生かしにくい」(経済学)
「最悪の状態はどこまでも想定できる。どこまでかという線引き、価値判断を、専門家がすべきか(その他)

【論点4】専門知を政策に活かすために、現在の日本の構造的な問題にどう働きかけていくのか

「専門知が政策決定のサイクルに組み込まれることで、専門家も経験を積み、政策側にどう伝えると理解されるのかを学習していける」(経済学)
「専門家が政策決定に関わる体制を整備し、維持することが重要。日本でいきなり体制整備はできないかもしれないが、アカデミアの方からの働きかけも必要」(理工系)
「研究者も政策の立場を理解する必要があるが、政策担当者には、最低限のリテラシーを持ち判断できる人が必要である」(経済学)
「経済分野などで、政策に専門家を活用する体制が未整備。専門家を上手く使えていない」(経済学)
「政策にエビデンスを活用する、という流れをつくり、専門家が活躍する環境を整えていく必要がある」(経済学)
「緊急時は特に、行政の現場で情報連携がうまくいっていない状況がある。情報共有の体制づくり、現場レベルでつなぐ役割が不足している」(理工系)
「政策には統計の活用が重要であり、データサイエンス分野の人材を国レベルで養成していく必要性がある」
「公論形成にはメディアの役割も重要。『予測はソーシャルアクティビティ』という考え方もあり、専門家から意思決定者に伝えるための仕組みや情報を受け止める側の素地の形成といった問題も含む。幅広く、様々な分野の努力が必要である」(その他)

ワークショップの概要は、以下よりご覧ください。

第7回 学術知共創プロジェクトワークショップ ~将来の人口動態を見据えた社会・人間の在り方~

テーマ代表者:大竹文雄 大阪大学大学院経済学研究科教授

ご案内リーフレットはこちら(PDF)

参加者リストはこちら(PDF)

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