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論点抽出記事(詳細版):WS06〜専門知をめぐる格差〜

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「人文学・社会科学を軸とした学術知共創プロジェクト」では、2021年9月13日、第6回ワークショップ「分断社会の超克~専門知をめぐる格差~」を開催しました。

冒頭、問題意識を共有するにあたって、テーマ代表者である大阪大学大学院人間科学研究科 稲場圭信教授は、文化と科学との分断が、問題を適切に認識し解決策の有効性を減ずる原因になっているという現状認識を示しました。知の生産が国や地域、組織の支援に依存しているために、専門知のイニシアティブをめぐる分断や格差が生じているという問題点を指摘しながら、科学によって伝えられる知識と、経験と想像力の溶けあった智恵のバランスの回復、閉じた知からの脱却といった解決の方向性も示唆しました。そのうえで、専門知をめぐる格差の問題をいのちとは何かに立ち返って問い直し、分断社会を超克することから共生社会実現の方法を模索していく必要性を指摘しました。

続いて、3人のパネリストが話題提供とパネルディスカッションを行いました。まず、大阪大学大学院人間科学研究科 森田敦郎教授が、「気候変動時代の科学と社会」をテーマに、気候変動の問題の解決やそれに向けた社会デザインに果たす人文社会科学の役割の大きさについて、また、応用研究と理論研究の境界を越えた今後の人文社会科学への期待を語りました。次に、大阪大学社会技術共創センター 標葉隆馬准教授が、「科学技術の南北問題」と題して、資本集積の差が知識生産の格差につながっている現状や、グローバル、ローカル、ラボの各レベルで植民地的な構造が埋め込まれている問題点を指摘し、ポストコロニアル研究の方法論や人・モノ・知識をめぐる資源ネットワークへの視座など、問題を考える上での方向性を提起しました。最後に、協和メディカル株式会社 杉浦万正代表取締役社長が、「医療科学技術と民衆の知恵」をテーマに、若者から高齢者まで多様な世代や立場の人が共生する「グローバルビレッジ津雲台」での取り組みを例に、地域共生社会を創造するうえでの課題や可能性について語りました。

その後、参加者22人が3つのテーマに分かれてグループディカッションを行い、その内容を踏まえたうえで全体討議が行われました。以上の内容を、抽出された論点に沿って以下に分類しています。

論点による整理

【論点1】知と智恵のハイブリッドをいかに創出していけるか

「伝統知識とテクノクラティックな知識との間に、知識としての階層性があると捉えるべきではない」(文化人類学)
「知識や智恵を捉える視点自体が偏り、一義的になっているという問題がある」(社会学)
「防災教育やリスクコミュニケーションの文脈では、知識が増えても、アクションは増えないとされている」(その他)
「地球の未来を考えていくことは重要だが、未来を志向する政策で現在を生きる人々の生活にどこまでコミットしていいのか、生の尊厳とどのように両立できるのかは考えるべきポイントである」(その他)
「知識は増えるものだが、智恵は増えるものではない。知識は外にたまり、智恵は使う側の内にたまる。市民が専門家を使える構造にしていくことが大事」(その他)
「現地の人たちが長期にわたって蓄積してきた知識を、テクノクラティックな知識につなげていくところに、人文系の研究者の役割が期待される」(文化人類学)
「知が専門家だけに限定され、非専門家がそこにアクセスするという構造自体を再考すべき。知識を貯めるだけでなく、知恵を身につけ増やすには、専門家だけでなくいろんな人を巻き込む必要がある」(哲学)
「智恵とは、経験知的なものかと思う。経験知へのアクセスへのニーズは高い。そのような情報の信頼性を確保することが重要だが、その際に学術的な情報提供が意味を持ちうる」(その他)
「個人の体験が研究や専門知識のかみ砕きにきいてくる。その意味で、経験をつくりだす場の意味がある。コミュニティのような経験の部分から生み出される専門知も重要」(その他・実務家)
「市民に学ばせてもらう、地域に培われたコミュニティの智恵を活用するといった、双方向的な在り方が重要」(社会学)

【論点2】様々な乖離を平坦にしていくために専門家の関わり方

○市民との間

「一般の人たちが科学の実践の場に触れ、どのように知識がつくられるのかをオープンにし、科学観のギャップを埋めていくことが重要」(文化人類学)
「市民は過去を起点に判断することが多い。未来志向を実践レベルで取り入れていけるところに分断を埋める可能性がある」(その他)
「現代社会の意思決定は、私たち市民一人一人が感じ取ったりするところから遠くにあり、意思決定や意見が届かない」(その他)
「学問がめざす客観性とは乖離しているが、『誰が言ったか』で信頼性を担保し情報の取捨選択をすることの効率性に目を向けるべき」(人文地理学)
「現代は専門家かそうではないかの切り分けが難しい時代。何らかの知識を持っている前提で、持っているもの、持っていないものをすり合わせていくべきか」(教育学)
「在宅医療の分野では、『専門知』の判断が正しい価値にならない場合もある。専門知を社会の変化の中に収める時に、どうしても判断のずれは出てくる」(その他)
「実際に専門知があるかどうかとは関係なく、年齢・性別・立場などによって、それまで与えられてきた構えから抜けられない人がいる。専門家のアプローチ次第で分断を回避できる可能性もある」(教育学、心理学、その他)
「専門家は、目的を果たすためのサポートをする人、アドバイザー的な立ち位置でないとうまくいかない」(実務家)
「専門家は、専門性とアイデンティティが不可分になりやすい。専門性から自由ではない」(その他)「研究室でのたこつぼ化の問題を避けるために、学生には、自分の専門について説明し、社会にどう還元したいか伝える力を養っている。ファシリテートする力は、専門知に匹敵する重要性を持つ。専門知識を持つ人が、ファシリテートする力も同時に持つことが大切」(社会学)

○他分野との間

「社会変革をめざす研究者がネットワークを組み、検証して政策提言を行うことが重要。日本の人文社会科学は、個々バラバラでなく、もっと戦略的に動く必要がある」(政治学)
「人文社会系の研究者は知識をオーバーラップさせること、オーバーラップしていく方法を専門にできるかもしれない。理系の研究者にとっても、そのような役割は受け入れられるのではないか」(その他)
「日本の場合、全体を見通し、様々な領域が繋がった形での研究がメインストリームにならない。世界中で様々な学際研究のアイデアが試されているのでそれをレビューし、方法を見つけていけるはず」(文化人類学)
「日本の文系は、その他の分野とどのように結びつくか方法論的な部分が弱く、文理融合や学際研究が寄せ集めになりがちである。成功したプロジェクトの方法論を公表したり、データベース化することが必要だ」(政治学)

○知識生産の場

「大学は、留学生を集めるなど、植民地的な構造を利用して存続している側面がある。ある種の搾取の構造に手を貸す状況になっている」(哲学)
「途上国の持続的で公平な資源利用の仕組みにつながることを目指した研究をする場合にも、知識生産という意味では搾取になるのか」(その他)
「知識生産において、誰かの知識や潜在的可能性が生かされていない状態があるかという観点から搾取構造について分析できると面白い」(その他)
「大学へのアクセスが限定的になってしまっているのが問題。地域格差、ジェンダー格差もあるが、特に日本の場合は年齢格差が目立つ」(哲学)
「学生にとってもフィールドから直接学ぶ場の存在は重要である」(心理学)

【論点3】専門知と現場知が融合する、場、人材、仕組みの実践

国・地方自治体のガバナンスの在り方に学術知を活かせないか

○情報アクセス

「デジタルツールなど文章以外の様々なツールを使って専門知をどう伝達するか、また、非専門家からの情報をどう受け取るかが重要」(その他)
「情報発信においては、受けとる側がアクセスしやすいように標準化する必要性がある」(社会学)「知識が大量にある状態の中で、プッシュ型の情報提供をしても受け手側には届かない。必要な情報に確実にたどり着ける経路の確保、知恵の共有が重要」(その他)
「人文社会科学からエビデンスを基にした分析を政策提言に活かしていくことも必要ではないか」(その他)
「在宅医療の現場で、人々の生活と専門知識をつなぐときに『解釈』『期待』『感情』『影響』の頭文字を取った『かきかえ』を念頭に置いていると聞いた。専門知と現場知のブリッジの一つの例である」(その他)

○融合の場

「研究者はつながっているが、それを現場に投入する段階では、有機的な連携ができているとは言えない。知識の重ね合わせが重要である。たとえば、人類史として獲得してきた産業からの転換を求められている現場の人たちは、納得のいく答えを探している」(その他)
「研究対象者となる当事者とどのようなネットワークが構築できるかが重要」(文化人類学)
「専門家が一般の人から学ぶことが多い領域もある。そこから学ぶこともできるのではないか」(心理学)
「専門知の側が地域に場所をつくらせてもらうことで、いろんなアイデア、知識の種のようなものがもたらされる」(心理学、その他)
「フィールドでは何が専門知かわからないことも多い。上手く考えを引き出したり、そこからフィードバックしたりすることで専門知が浮かび出てくることもよくある」(その他)
「様々な人が恒常的に出入りする場があることによって、知識生産が行われることもある」(その他)「地域共生社会は、専門家が何とかするというものでなく、昔からある地域の力をどう高め、みんなで支える仕組みにするかが問われている」(実務家)
「医療者が町に出る仕組み、専門家と一般の人の出会い方を変える仕組みづくりを実践している」(実務家)
「『専門知を持つこと』と『専門知に対する信頼』は、実際には一致しない。その両方にアプローチする方法や場が求められている」(実務家)

○人材

「日本の場合、専門知と市民の架け橋を担うNGOが少なく、影響力もないことが、分断の大きな要因の一つか。NGOと研究者のコミュニケーション促進も必要」(政治学)
「専門知の経路依存が問題。ネットワークやコーディネーションなどへの投資が不足している。専門知をいくつもつなぎ合わせる『通訳』が評価される社会にする必要がある」(人文地理学)
「橋渡し、ネットワークをする人の貢献が評価される必要がある」(心理学)

○仕組み

「継続していく仕組みのために、ビジネス的な観点は重要。産官学連携はその意味で必要」(実務家)「評価の問題を見直す必要がある。取り組みの影響が科学的に証明できなくても、何らかの評価が得られ予算が出る仕組みが必要ではないか」(その他)
「『儲からなくてもいい』『楽しい方がいい』といった、少し常識とは違う考えの人がネットワークをつくれるといい」(実務家)

ワークショップの概要は、以下よりご覧ください。

第6回学術知共創プロジェクトワークショップ 分断社会の超克~専門知をめぐる格差~

テーマ代表者:稲場圭信 大阪大学大学院人間科学研究科 教授

ご案内リーフレットはこちら(PDF)

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