人がAIと生きる世界を3つの方向から検討
「人文学・社会科学を軸とした学術知共創プロジェクト」では、様々な社会課題に向き合い未来を構想するために、異分野の融合に挑戦するユニークな研究チーム発足を目標に、人文学・社会科学を中心に様々な分野の研究者・実務家が集まるワークショップを開催しています。2021年1月25日にはその第2回目として「新たな人類社会を形成する価値の創造―AIと倫理」がオンラインで開かれました。哲学・倫理学をはじめ様々な分野の研究者、AI研究や社会実装に携わる企業人、リサーチアドミニストレータなど幅広い領域から28名が集まりました。
テーマ代表者である京都大学大学院文学研究科・出口康夫教授からは、人文学・社会科学の知によってソリューションの前提となる価値の座標軸を見出し、日本・アジアを含む多元的な価値観を見直し、新たな価値を創造したいというワークショップへの期待感が述べられました。参加者が研究内容やワークショップへの参加動機を1分間で自己紹介するフラッシュトークの後、出口教授の提案した「AI倫理綱領の構想」「パラヒューマン社会の未来図」「シンギュラリティ問題と実存の危機」の3テーマについてそれぞれグループディスカッションが行われました。
三者三様の展開に議論の広がりを予感
「AI倫理綱領」のグループは、参加者が共同でAI倫理綱領を作る試みにトライ。載せるべき項目を選び綱領を記述してみる中で、AIの定義やAIのもたらす社会的影響などについて議論されました。「パラヒューマン社会」のグループでは、「人格」を持つような人間でないエージェントとの共存の可能性をテーマに、人格とは何かということや、パラヒューマン社会を考える上でペットの倫理が参考になるといったことにも話が及びました。「シンギュラリティ問題」のグループでは、AIの自律性を糸口に議論を進め、AIに痛みを持たせる必要があるか、法人など人以外に認められる人格をどう考えるかといった多彩な論点が生まれました。
第1回目のワークショップと同じく、後半には40代以下が参加する若手研究者セミナーが行われ、3つのグループそれぞれに個性的な議論が展開されました。「AI倫理綱領」のグループでは、せっかく作った綱領を批判的に見るという「ちゃぶ台返し」を通して、AI特有の倫理的な問題など様々な観点でAI倫理を考察。「パラヒューマン社会」のグループは自由に発想を広げ、人間に近い「悩むAI」「弱いAI」などの可能性にも言及しました。「シンギュラリティ問題」のグループでは、AIに判断や決断を任せてしまうことへの違和感をテーマに、そのような違和感はなぜ起こるのか、どう解消するのかについて議論されました。
AIについて考えることは人間を考えることである、ということが、様々な方向から改めて確認できるワークショップとなりました。AIを通して人間観がどのように見直されていくのか、今後とも興味深い議論が期待できそうです。
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記事(詳細版):WS02~AIと倫理~
ワークショップの概要は、以下よりご覧ください。
第2回 学術知共創プロジェクトワークショップ ~新たな人類社会を形成する価値の創造~
テーマ代表者:出口康夫 京都大学大学院文学研究科教授